沸きあがる歓声、煌くスポットライト、そしてステージには二人の美少女。
一人は流れる黒髪にスラリとした美人系とも言える少女、かなめだ。
それからもう一人はキレイに編み上げられた銀髪に円らな瞳、テッサだった。
二人ははちきれんばかりの熱気溢れる会場で、歌い、踊る。
背後にはバックダンサーのボン太くん達が軽やかにまふもふとブレイクダンスとかしている。
『カナちゃーん!』
『テッサたーん!』
黄色い声…よりも野太い男性の声が多いのが気になる。
恐らく、かなめは死んでも着たく無いと訴えたが、テッサがどうしてもと駄々をこねて押通したこの衣装、メイドさんの服のせいだろう。
しかし満員御礼、この上なくおあつらえ向きなステージだ。…この最後のコンサートには。
ピタリとシンクロしてかなめとテッサは観客を魅了し続ける、
「何故なら」
「あたしたちは」
『ウィスパード!!』
二人が決め台詞決めポーズを取ると観客はまるで『なぱーむぼむ』をうっかり落としたみたいにドカンと沸いた。
それはテッサは死んでもやりたくないと訴えたが、かなめがどうしてもと駄々をこねた彼女ひいきの格闘家のファイティングポーズだった。
(余談であるが意外とこれがマニアに受けた。)
それから二人は視線を合わせてアイドルっぽく無駄にこくりと頷いたりしてから言った。
「みんな聞いてー…」
会場は水を打ったように静まり返る。
「私たち、普通の女の子に戻ります…!!」
え〜〜〜〜と、会場からお昼の番組みたいなリアクションが一斉に沸いた。
「ウィスパードなんてもう嫌っ!」
「狙われるのなんてコリゴリっ!」
「だから私たち…」
それからまた台本どおり打ち合わせ通り解散宣言を二人で同時に放とうと、テッサがかなめを一瞥する…がかなめはこちらを見ていない。
(…かなめさん? 次合わせますよ? かなめさん?)
テッサはボショボショ隣のかなめに耳打ちする、が、かなめは突然スッと一歩前に進み出て叫んだ。
「あと…、恋人にしたくないアイドルとかも嫌!!」
(かなめさん?!台本と違いますけど?!)
「贈呈品イーターとか音速のオヤジギャルとか黙ってれば美人とか…!!」
「ちょっと…だからそれはかなめさんだけですよお!!」
「やかましい! とにかくもうあたしは不名誉な称号を払拭すると決めたの!!」
「かなめさん!!…はっ」
見るとかなめはふるふると肩を震わせて泣いているではないか。
テッサにはもうそれ以上彼女に声をかける事が出来なかった、と言うかなんか触れてはイケナイ気がした。
「やめやめ!もうやめるのっ!! お笑いキャラとか真っ平なのよ! ヨゴレとか好きでやってんじゃないのよ!! 女らしく…なるの。」
どよ・・・どよと会場は困惑の反応を見せている、無理も無い突然アイドルが物凄く個人的なストレスをぶちまけ始めたのだから。
「それで…、それでクラスの男子どもとか…、どっかの天然バカとか…吠え面かかせてやるの…今年こそ…決めたの!!」
天然バカって誰…?…さらに会場はシーンとなる。
が。
パチパチパチパチ……
どこからとも無く拍手が起こった。
「…え?」
「負けないで」
「なんか分かんないけど頑張って〜!」
それから、まばらだった拍手が喝采となり、応援は大声援となって会場を包んだ。
そして突如始まる『ちろりコール』今まで『カナちゃん』だったのに。
ち・ろ・り、ち・ろ・り、ち・ろ・り…
なんかあまり格好良くないなあ…とかなめは贅沢な事を考えながらも気を取り直して感動に打ち震えた。
「皆っ!!!」
かなめはボロボロと涙を流し、立ち上がる。
「ありがとーーー!!あたし可愛い女の子になる!頑張るからねーーーー!!!」
かなめはそう言って、握り締めた拳を天高く突き上げ叫んだ、漢らしく。
そのころテッサはマネージャーのマデューカスさんを呼んでとっとと退散していた。