駅を出た後、ソースケは黙々と歩き続けました。


時折おばあさんに道を尋ねてはいますが、その他にはしゃべりませんでした。


(無口な奴・・・)


そんな青年をかなめはじっと観察してみました。


鋭い目つきに無愛想な顔、左の頬に十字の傷が入っていて、少し右足の動きが鈍いようです。


(ん・・・?どっかで見たような・・・)


特徴に何となく覚えがあったので、記憶の箱をひっくり返してみますが、なかなか思い出せません。


「おぉ、ここですよ」


かなめが考え事をしているうちにおばあさんの家に着いたようです。


おばあさんはソースケとかなめに何度もお礼を言って家の中に入っていきました。


(うむ、我ながら良いことをした。)


満足げな顔をしていると、かなめが近寄ってきました。


「はい、荷物」


「うむ、すまない」


「あんた、見た目はちょっとあれだけど、案外いい奴ね」


「それは褒めているのか・・・?」


「まぁ、そういうことにしといて」


「・・・・・・」


まぁ、彼女が言うなら、そういう事にしておこうとソースケは納得しました。


「さて、帰ろっかな」


「・・・もう暗いぞ。君も送ろう」


「えっ?いいわよ別に」


「方向が同じならかまわんだろう」


「あたしはあっちだけど?」


「俺もだ」


かなめは少しの間考えた後、


「じゃ、近くまでお願いしよっかな」


「了解した」


そんなわけで、2人は同じ方向へ歩き始めました。

視界のほとんどが夕闇にぼやける中、2人は歩いていました。


ソースケはあれこれ聞かれると答えに詰まるので、なるだけ話さないようにしていたのですが、かなめは彼に話しかけてきました。


「そーいえばあんた名前は?」


「・・・・・・(汗)」


「ちょっと、名前くらい教えなさいよ」


「・・・・宗介だ」


「ソースケ?苗字は?」


「・・・・・・(滝汗)」


苗字を聞かれたソースケは、以前カリーニンおじさんが言っていた自分の名前の由来を必死に思い出そうとします。


(確か・・・)


「サガラだ」


「ふ〜ん、相良宗介か」


よかった。不自然な点は無かったようだ、と一安心。


「何歳?今学生でしょ?」


「いや、学校には通っていない」


「え?大人には見えないけど?」


ソースケの年齢は(犬の)2歳ですが、まさか2歳というわけにはいきません。


当然、犬の2歳が人間の何歳かなど知らないので、ごまかそうと必死です。


「海外を転々としているのでな。学校など通うだけ無駄だ。」


「ふ〜ん・・・そっか」


危ない危ない、何とかごまかせたようです。


そんな他愛もない話をしていたら、かなめのマンションの近くの公園に差し掛かりました。


と、


(何だ、この妙な感じは・・・)


突然呼吸が苦しくなり、視界がゆがんで見え始めました。


(まさか・・・薬の効果が・・・?)


「ちょ・・・どうしたの!?」


心配そうにかなめが顔を覗き込んできます。


(ここで元に戻っては・・・)


「すまん、用事を思い出した」


ソースケはかなめにそう言い残して公園内にある林めがけて走り出しました。


「えっ?ちょっと・・・」


かなめは追いかけますが、ソースケの姿は夕闇の林の中に消えて行ってしまいました。


あちこち探しますが、人の姿は見えません。


「もう、いきなり何なのよ・・・」


近くを探しても、もう彼の姿は見えないので、かなめが諦めて帰ろうとすると・・・、


「ワン!」


「あ、ソースケ」


公園のベンチの前に見慣れた犬が座っていました。


「あれ?何であんたここにいるの?」


「ワン!(諸事情でな)」


「ん?ソースケ・・・?ソースケって・・・」


「煤I(バレたか!?)」


かなめはしばらく考え込んでいましたが、


(ま、んな事あるわけないよね)


と思ってくれたのはソースケにとっては幸運でした。


「そうだ!ソースケ。家に残り物があるから食べて行きなさいよ。」


「ワン!(感謝する)」


そう言って歩き出すかなめに、ソースケはいつものようについていきました。


(やはりこれがいい・・・)


改めて、犬の方が気が楽だ、と実感しながらソースケの小さな冒険が終わったのでした。


風と炎のワルツ/N.oさんから、相互リンクの記念に頂きました。
本来サイト様の10000HIT記念の作品だったのですが、この犬ソースケとアルのケンカや、
千鳥とのほのぼのシーンが大好きで無理やり頂きました。(笑
このお話のおまけがN.oさんのサイトで見れますので是非!

個人的に何時しか犬ソースケが人間になっちゃってちろりとランデブーして頂きたいです(笑